製造業にとって競争力の源泉はどこにあるか。マイケル・ポーターは、価値連鎖として、購買物流、製造、出荷物流、マーケティングと販売、そしてサービスという5つの主活動と4つの支援活動により、価値を生み出していくモデルを示している。本稿では、さらにこれを簡略化し、営業、設計、そして製造という3つの基本機能を取り上げ、そこで行われている業務について考えたい。

非常に乱暴に言うと、“製造”は、図面や手順書などの再利用可能な知識を、個々の製品というモノに変換する作業であり、そのための情報技術が必要とされる。これに対して、“設計”では、得意先のさまざまなニーズや要求を、製品がもつ機能に置き換え、設計図やCADデータ、そして手順書や工程表に対応づける作業といえる。つまり、要求を知識に変換する作業であり、そのための情報技術が必要とされる。

同様にして考えると、“営業”では、提供可能な製品やサービスと、得意先の要求とをつなぐための活動といえ、モノを要求に変換する作業となる。つまり、営業、設計、そして製造は、以下の図にあるとおり、それぞれ何かを何かに変換する業務であり、そのためには情報と情報をつなぐ作業、つまり“つなぐ化”が極めて重要となってくる。

付加価値を生み出す業務構造
図1 付加価値を生み出す業務構造

変化の激しい時代では、設計、製造、そして営業が一体となった管理技術の重要性が高まる一方で、このための情報処理の複雑さは、すでに人が管理できるレベルをはるかに超えている。しかし、だからこそ、この部分の出来、不出来が、企業全体のパフォーマンスを大きく左右するようになっていのである。つまり、ここが差別化のポイントとなり、競争力の源泉となり得るのだ。

もし、依頼した特注品の納期回答が数時間以内に届き、かつその期日が確実であったとしたら、また、発注後も仕様変更が可能で、それに対応した追加費用や納入日の変更を事前に相談できたら、そして、過去に注文した製品情報や製造履歴を取引先の方で保管しており、個別の履歴情報の照会や、再注文時の対応が、そうした情報にもとづいて的確に行われていたら、価格が多少高くても、多くの企業がその取引先を選ぶであろう。

その企業は、おそらく、新規の得意先の開拓や新技術への対応スピードが速く、対象業種ごと、あるいは個別得意先ごとに異なる事情にも、事務工数を増やすことなく対応できるだろう。そして、複数拠点やグローバル化への対応もすばやく、そして、社内の技術者や管理者の育成、技能伝承、フレキシブルな人事・評価制度、余裕があるがムダのない業務オペレーションなど、企業内についてもさまざまな魅力的な差別化を実施しているに違いない。

どうすれば、こうした企業になれるのか。ボトムアップに問題を発見し、その都度解決策を実施していくカイゼン活動は、日本の製造業の得意分野である。これを情報技術の世界に広げることで、非常に大きな成果が期待できるのだ。ここでのカイゼンの対象は、担当者と担当者、業務と業務の間をいかにしてつなぐかという“つなぐ化”にある。こうした活動を“ITカイゼン”と呼ぶことにする。

>> 4.「ITカイゼンによるボトムアップ改革」