この記事は、工場管理の2012年7月号(Vol.58, No.8 pp.12-18)に掲載された記事の原稿です。

1. 製造業の情報システムの現状

中小製造業において、ITは企業の成長にどれだけ貢献しているのだろうか? 以前に導入したオフコンのサポート打切りにともない、システムを入れ替えたいが、当時の担当者が転職して誰もわからない。いまさら投資はできないので、無理して使って返って手間暇がかかっている。購入した個別の業務システムも、コンピュータのOS等のバージョンアップに対応できず、10年以上前のパソコンが動いていたりする。

個々のパッケージソフトと他の業務ソフト間は、データとしてつながっていないため、それぞれに日々の業務データを二重入力する。システムを動かすための形式的な入力、非効率な転記作業、膨大な出力帳票、結局再利用されない紙伝票、増え続けるExcelファイル・・・。

変化の時代、スピードの時代なのに、得意先の業種や業態の転換に情報システムが対応できていない。競争力の源泉となるはずの情報技術がかえって企業の足をひっぱっている。

大企業や中堅製造業でも、状況は似たようなものである。鳴物入りで導入してみたはいいものの、いろいろな部分で業務の実情に合っていない評判の悪い基幹系ERP、そしてそれを補完するため、急きょ作られたExcel&VBAの周辺システムが氾濫する。一方で、個別の業務システムは健在であるが、基幹システムとの間は、場当たり的なインタフェースしかなく、例外的な状況にはすべて人手で対応している。また、それぞれのマスター情報を、それぞれを独自にメンテナンスしているため、データの整合性がとれず、トラブルを誘発する。

固定費縮小、経費削減、新規投資案件の絞り込みなどの流れから、部門個別の業務のIT化には予算がつかず、独自のしくみを構築することもままならない。結局、担当者個人が、その責任の範囲内でExcelなどの個人ツールによって自己防衛するしかなく、それがさらに全体を見えなくするという負のスパイラル状態に陥っている。

グローバル化が過激なピッチで進み、国内の産業構造も大幅に転換しつつあるこの時期、日本の製造業は、情報技術に関して、向かうべき方向を見失っているのではないか。すくなくとも、ITというキーワードを通して、製造業が明るい未来をイメージした時代は過ぎ去った。何が問題なのか、製造業は何をしなければならないのか、どこに向かうべきなのか、ひとつの答えを示したい。

>> 2.「競争力はどうすれば向上するのか」