製造業のカイゼン活動は、ムダの徹底的な排除による原価低減と、品質向上による製品価値向上のための活動である。どちらかというと、デフレの時代、売り上げが伸びない状況では、前者のムダの排除を徹底し、コストを極限まで減らすことが最大の目標となるのは当然の流れである。これまで、省力化、省人化という視点から、人件費削減による原価低減に貢献してきたITさえも、コスト要因として切り詰められている。

コストではなく、企業の競争力を高めるための“戦略的ITの利活用”が効果を上げる場合もある。大企業では、全社的な業務改革の旗印のもと、事業構造をトップダウンで見直し、あるべき姿と現状についてフィット&ギャップ方式で解析し、そして設定した目標に向けた大規模なプロジェクトで一気呵成に業務システムを入れ替える、といった取り組みも行われている。

こうした取り組みによってできあがる新しいしくみが、対外的な競争戦略のなかで位置づけられ、企業価値向上に貢献している一方で、それらの事業構造を支えている個々の業務プロセス、情報の共有と連携、意思決定と評価のしくみなどが、企業の内部にきちんと組み込まれているかどうかには疑問が残る。いわゆる現場力が落ちているのである。

多くの日本人は前例を尊び急激な変化を嫌う。長く根付いた慣習はなかなか変えられない。日本の製造業は、カイゼンは得意であるが、現状の否定あるいは創造的破壊をともなうイノベーションは苦手なのである。したがって、戦略的な構造転換は、なかなか成果が上がらず、斬新な製品やサービスはそう簡単には生まれない。であるならば、日本企業が得意とするカイゼンによる劇的な差別化によって、企業価値の向上を行うという戦略に徹してみてはどうだろうか。

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