多くの場合、ITカイゼンのためには、道具としてのITが不可欠となります。情報の流れをよくするためには、情報をある程度デジタル化し、効率的な保管と検索、時間や場所の制約を受けにくい伝達、過去の事例やノウハウの再利用などを積極的に行っていく必要があります。

道具としてのITでは、実現したいしくみを作る人と使う人が同一の人、あるいは同じ部署の人である必要があります。つまり、ITの専門家でなくても、実現したいしくみが作れるようなITツールが必要です。具体的にあげると、以下のような要件を満たしてほしいですね。

  • プログラムをすることなく、パラメータなどの設定により目的の機能を実現できる
  • Excelや既存の情報をそのまま活用でき、同時にレガシーのデータベースなどとも連携が可能である
  • 企業の業務知識と若干のITスキルがある要員が、自ら工夫することでカスタマイズが可能である
  • コストがかからず、創意工夫が成果として共有でき、それを再利用することが容易である
  • データおよびデータ構造がオープンであり、業務の変更や拡張に対応でき発展性がある

マイクロソフト社のExcelというITツールは、非常に優れたソフトウェアであり、多くの製造業の現場で、管理業務をこのソフトウェアを利用して実施しています。しかし、Excelの難点は、形式や構造が自由な分だけ、そこに含まれている情報を、外部のしくみとやりとり(連携)する場合に手間がかかるということです。

コンテキサーは、Excelのような柔軟性を持ちながら、情報を外部のRDBや個別のCSVなどと容易に連携でき、内部でさまざまな加工や集計などができる便利ツールということもできます。

おしまい
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ITカイゼンとは、業務のムリ、ムダ、ムラをなくすために、現場が中心となって情報の流れをよくする活動です。ちょっと分かりにくいキーワードですが、ITを改善するのではありません。ITで何かを改善するのではありません。ITカイゼンは、実はITでなくてもできるのです。あくまで、ここでの対象は、業務であり、業務で利用または生成される情報なのです。

情報には、アナログな情報とデジタルな情報があります。これらをひっくるめて、ITカイゼンは情報の流れをよくします。具体的には、以下の3つのステップを繰り返し実施します。

構造の見える化,情報の流れの見える化,業務間・部門間の情報連携
3 構造の見える化,情報の流れの見える化,業務間・部門間の情報連携

ステップ1では、見えない情報を見えるようにします。情報を見えるようにするということは、それぞれの情報の形をみつけ、それに合った引き出しに整理整頓することです。引き出しには、きちんとラベルを貼って、誰が見ても分かるようにしておきます。

ステップ2は情報の流れの見える化です。この情報は、誰が作ったのか、誰が使うのか、といった情報の送り手と受け手を明らかにし、情報の流れから業務の流れを再定義します。ここで、さまざまな情報のムダが見えてきます。

ステップ3では、情報の流れの中で、ボトルネックを探し改善します。企業や組織的な活動では、業務間、部門間で連携して仕事を進めていくことが必要です。特に連携が悪いところ、時間がかかっているところ、ミスが多いところなどを徹底的に改善します。

>> 7.「ITカイゼンのためのツール」

業務システムを開発するプロセスは、一般的なモノづくりと似ていて、製品を開発するには、見積り(要件定義)、設計(仕様書作成)、製造(実装)、検査、そして保守などがあります。基幹系など大がかりなシステムになると、ビルやマンションの建設のように、これらの各工程を綿密に実行していきます。これを、ITの世界ではフォーターフォール型開発といいます。

業務システムを構築する場合、「できあがって見たら、自分たちの業務にあわなかった」といった状況を回避するために、プロトタイピング方式とか、アジャイル型開発といった手法もとられています。しかし、プロトタイピング方式も、アジャイル型開発も、以下の図でいうと開発メンテ型に含まれます。

これに対して、PDCA型の業務システムでは、常に業務システムのどこか一部が作り変えられているようなしくみです。開発フェーズと運用フェーズが限りなく一体化しています。たとえるならば、常に改装、改築している温泉旅館、あるいは永遠に工事を続けているサクラダファミリアみたいなものです。

開発メンテ型とPDCA型
図2 開発メンテ型とPDCA型

多くの場合、このPDCA型のシステム開発は好まれません。作り手と使い手の責任分担が不明確だし、開発者としては、システムの検収や費用の請求がとてもしにくいからです。使う側も、いつも工事中ではあまり気持ちがよくありません。しかしながら、常に進化する組織とは、実はこういう状態なのではないでしょうか?

>> 6.「ITカイゼンの意味すること」

業務システムというと、人間系(アナログ系)を多分に含むしくみを指す場合もありますが、ここではデジタル系、つまりITシステムを指すことにします。たとえば、基幹系の情報システムを何千万円、あるいは何億円もかけて構築したが、どうも社内で評判がわるい、あるいは、使っていないようだ、といった事例が後を絶ちません。

ないものねだり、という部分もありますが、どのようなシステムでなければならないのでしょうか? あるいはどのように作らなければならないのでしょうか? 以下の図のように、仕様を満たしていても、利用可能(満足レベル)でない場合が実は多いのです。

多くの成功事例,問題のある事例,極めて少ない理想的事例
図1 多くの成功事例,問題のある事例,極めて少ない理想的事例

開発者あるいは設計者にとっては、お金と時間さえかければ、要求仕様を満足するシステムを作ることはできるのだ、と確信をもって言えるはず。しかし、ここでの問題は、お金と時間は有限であること、そして要求そのものが仕様書として明らかではないことですね。

素晴らしいシステムとは、業務の変革とともに拡張可能なしくみです。これを効果に見合った価格で提供してもらえるなら、これ以上に素晴らしいことはないはずです。

>> 5.「PDCA型の業務システム」

IT(Information Technology)は、日本語では情報技術と訳されていますが、正確にはIT=情報技術ではありません。ITとは「デジタル化された情報技術」のことです。私たち人間が普段やっているアナログ的な情報技術は、ITではありません。テレビだって、ちょっと前までは、アナログでしたね。

インターネットが普及し、あらゆる情報がデジタル化されてしまいそうな勢いですが、ここでそれらのIT社会に飲み込まれてしまわないように、ひとことアドバイス。ITには、装置としてのITと道具としてのITの2種類あるということを知っておきましょう。

装置としてのITは、文字通り装置あるいは機械として、情報をインプットすると、何らかの計算をしたり、誰かに情報を伝えたり、何かを動かしたりするしくみです。銀行のATMは巨大なIT装置です。鉄道や航空会社のチケット予約などもIT装置です。装置としてのITは、作り手(銀行や航空会社)がいて、利用者(お客様)がいます。

一方、道具としてのITは、そのITを用いて何を作るかは、あらかじめ分かりません。ITによってやりたいことや作りたいしくみは、道具の使い手である人(これは、使い手というより作り手)が決めます。そういう意味では、道具としてのITは、作り手の手足、あるいは知恵の一部となって、さまざまな問題解決を支援します。

最近、企業の情報システム構築、あるいはシステムインテグレーション、といった世界では、ITの使い手(発注者)と作り手(受注者)の間で、いろいろな行き違いが多いようです。企業のさまざまな業務を、装置としてのITに置き換えることの限界が見えてきたといえるでしょう。

>> 4.「企業が望む理想システム」

ものづくりの現場では、7つのムダ(造りすぎのムダ、手待ちのムダ、運搬のムダ、加工そのもののムダ、在庫のムダ、動作のムダ、不良品・手直しのムダ)というのがあります。ムダをなくすことで、組織として、よりゼイ肉のない俊敏な体になったことが現在の日本の製造業の強さの秘密なのです。

一方、ITの世界では、目を覆いたくなるようなムダ、ムダ、ムダの山積みです。しかし、通常、情報というのは目に見えないので、多くの場合、このムダにだれもきがつきません。

では、どのようなムダがあるか見てみましょう。

  • その1:不要な情報を生成するムダ
  • その2:必要な情報の到着を待つムダ
  • その3:そもそも情報を伝達するムダ
  • その4:不正確な情報を修正するムダ
  • その5:そもそも情報を蓄積するムダ
  • その6:必要な情報を探すムダ
  • その7:情報の意味や精度を確認するムダ

いかがでしょうか? えっこれってムダなの?というものも含まれているかもしれません。すべてムダなのです。これらをなくすことで、実は信じられないくらい効率的でかつパワフルな組織に生まれ変わることができます。

>> 3.「世の中には2種類のITがある」

現場改善は、日本の製造業にとって非常に得意とする能力です。海外の工場において、かんばん方式はある程度の訓練をすれば取り入れることができますが、改善の心は、なかなかまねできません。これは労働に対する基本的な価値観の違いからくるのかもしれませんね。さて、”ITカイゼン”という新しい用語は、いったい何を意味しているのでしょうか?IT業界でも改善をしなさい、という意味では<ありません>。これは、製造業をはじめ、通常の業務を行うなかで、情報の流れをよくする活動のことです。

これまで、モノのながれ、現場に存在するハードとしての製品や部品や仕掛品などが、いかに停滞なくラインを流れるかということに、とても多くの意識をつかってきました。在庫があるというのは、モノが停滞している目で見える証拠です。流れの平準化、整流化、といったキーワードは、おもに目に見えるモノについて議論されてきたようにおもいます。一方で、お客様からの納入リードタイムを遅らせている大きな原因、あるいはなんらかのトラブル、予想外の状況に対応して作業が大幅に遅れるといった原因の大半は、情報の流れに起因していることが多いのです。つまり、情報の流れをよくすることが、実は生産の流れ、業務の流れをよりよくし、ムリ、ムダ、ムラをなくすことに大きく貢献するのです。

ITカイゼンのこのような目的を達成するためには、従来のような帳票や伝票、あるいは物理的なかんばん(カード)などではもやは限界にあります。情報を人がつねに操作可能な形でデジタル化し、それを効果的にやりとりするためのしくみと道具が必要となります。ただし、あくまでも、ITカイゼンを行うのは、現場の担当者自身ですので、彼ら、彼女らの意識や、情報に対する正しい取り組みが欠かせません。それにより、これまでは、個人のツールでしかなかなか活用できなかった個別の情報が、作業者を超え、部門を超え、組織としてより付加価値の高い(人間中心の)情報技術が可能となります。

>> 2.「組織に潜む7つのムダ」

かつて製造業は、乾いた雑巾を絞ると言われるほど、徹底したカイゼン活動でムダをなくし続けた。カイゼン活動が徹底している会社にいくと、工場はとてもきれいである。しかし、その裏側で、情報に関するムダについては、目を覆いたくなる状況が散見している。ITカイゼンは、その考え方を知るだけでも、すぐにその効果が実感できる。業務における情報の流れに注目し、それを追いかけてみよう。担当者を超え、業務を超え、そして部門や企業の垣根を超えた流れが存在するはずである。そして、まず、情報の受け手であり使い手である直接の相手の業務を理解し、“つなぐ化”のための情報のあり方を議論するところから始めて欲しい。

 製造業は、ここ数年、ビジョンなき受け身の改革を迫られ、心身ともに疲弊しているようにも見える。とりまく環境は非常に厳しいことは言うまでもないが、数値目標のみが先行しても、よい成果が得られるはずもない。いまやるべきことは、真に付加価値を生み出している業務の流れを再発見し、それを強化するとともに、将来の付加価値の源泉となる情報を再利用可能な知識として蓄積していくことである。そして、製造業の輝かしい未来は、そうした情報技術を駆使し、業務システムを自らの手で作り上げ、企業を内部から変革していくことができる人材をいかにして育てていくかにかかっている。

 おしまい
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多くの中小製造業では、ITの専門部署は存在せず、IT専属のスタッフもいない場合が多い。単一業務内でITツールを導入する場合や、個々の業務担当者が個々にITツールを使いこなすということであれば、それほど大きな混乱はないだろう。しかし、異なる部署間や、全社的に情報を共有、連携させたいような場合には、どこかの部署が推進役となり、そこで何らかのとりまとめを行う必要がある。

ITカイゼンを実施し、業務の流れ、情報の流れを部門横断的にカイゼンしていくためには、こうした部門間の調整や連絡を担うタスクチームを作ることが望ましい。そして、個別のカイゼン事例を、当事者間だけのものとせず、その成果や手順をできるだけ多くの関係者に披露し、成果を共有し見える化することが有効となる。これは担当者のモチベーションにもつながり、また相互の刺激にもなって、ITカイゼンの思想が全社的に広がることにもなる。

ITカイゼンの取り組みは、つねに現場視点から、情報システムを自己増殖させていくような取り組みであり、大企業や中堅企業の場合は、情報システムの内部統制の面で課題も多い。したがって、現実的な取り組みとしては、企業の中長期的なグランドデザインの中で、トップダウン的な枠組みを作り、そこであるべき情報の品質や精度を保証したうえで、個別業務の自由度をあたえるといった方法が望ましい。また、ITカイゼンのプラットフォームをあらかじめ整備し、個別におこなったカイゼンの内容を、全体としてきちんと把握できるような体制をとっておく必要もある。

大企業や中堅企業の場合は、特に、ITカイゼンを進めていく上で、既存のITシステム、あるいは基幹システムとの連携をとっていく必要がある。このような場合には、ITの専門家を社内、社外から調達し、それらのITシステムとのインタフェースの設計やデータ形式などの調整を事前に行っておく。各業務担当者がITカイゼンを進める中で、混乱なく、重複することなく、業務情報の定義が行えるようにするためには、実は非常に高度な標準化技術、モデリング技術が必要とされる。こうした部分はぜひ、外部のITベンダーやコンサルタントに期待したい。

> 8.「これからの課題と展望」

中小製造業のIT化が遅れている。モノづくりの現場にはITはいらない言う意見も根強い。モノと情報の一致、目で見る管理など、これまでの現場改善の取り組みは、IT化ときわめて相性が悪く、中小製造業のつよみである、臨機応変な対応、意思決定の速さ、経営と現場の一体感などを考えると、IT化を進めるよりも、担当者のアナログ的な対応に磨きをかけるほうがよいという場合もある。

どの中小製造業にも、業務のマイスター的な担当者がいて、彼ら彼女らが、関連する状況をすべて一手に把握し、柔軟で臨機応変な対応を行っている。これまでは、ITにたよらなくても、担当者によるアナログ的、暗黙知的な対応で、十分に仕事をこなしていくことが可能であった。しかし、今後さらに製品やサービスの多様化、個別化が進み、変化のスピードと状況の複雑性が急激に増加していくことで、管理業務が爆発的に増え、近いうちに間違いなくその許容範囲を超えるであろう。

まずは、“ITツール”によって、マイスター的な担当者の業務負荷をできるだけ低減する必要がある。過去のさまざまな注文、さまざまな仕様、さまざまな不具合やクレーム、得意先や取引先情報、加工条件、加工方法、材料選定、品質検査結果など、必要なときに必要な形でとりだせるようにし、そのための業務手順を明らかにした上で、状況に応じて誰でも分担できるようにし、そして他の業務との連携をより効果的に作り変えていく。

さらに中小製造業は、こうした“ITツール”によって、企業の組織的な意思決定をより高度化し、情報連携をネットワーク化することで、企業の壁をこえた取引を拡大していくべきなのである。幸いなことに、インターネットという極めて強力で安価なネットワークがある。SNSなどのインフラを利用することで、地域や業種や時間を超えた中小企業間の取引を、これまでにないスピードで簡単に立ち上げることが可能となっている。

  • その1:不要な情報を生成するムダ
  • その2:必要な情報の到着を待つムダ
  • その3:そもそも情報を伝達するムダ
  • その4:不正確な情報を修正するムダ
  • その5:そもそも情報を蓄積するムダ
  • その6:必要な情報を探すムダ
  • その7:情報の意味や精度を確認するムダ

図5 7つのムダ

 このために必要なのは、ほんの少しの知識と、新しいものに挑戦する勇気と、ITカイゼンによる“つなぐ化”というコンセプトへの理解だけである。つなぐ化では、図5にあげたような情報に関する7つのムダを徹底的になくし、情報を受け取る側、利用する側が望む形式で、情報を加工し、蓄積し、提供する。情報の世界でも”後工程はお客様”という考え方が必要なのであり、最低限、連携相手の業務を知らなければ情報は作れない。生きた情報のネットワークは、相互の業務をお互いに理解することから始まるのだ。

>> 7.「成長可能なITシステムのために」