中小製造業のIT化が遅れている。モノづくりの現場にはITはいらない言う意見も根強い。モノと情報の一致、目で見る管理など、これまでの現場改善の取り組みは、IT化ときわめて相性が悪く、中小製造業のつよみである、臨機応変な対応、意思決定の速さ、経営と現場の一体感などを考えると、IT化を進めるよりも、担当者のアナログ的な対応に磨きをかけるほうがよいという場合もある。
どの中小製造業にも、業務のマイスター的な担当者がいて、彼ら彼女らが、関連する状況をすべて一手に把握し、柔軟で臨機応変な対応を行っている。これまでは、ITにたよらなくても、担当者によるアナログ的、暗黙知的な対応で、十分に仕事をこなしていくことが可能であった。しかし、今後さらに製品やサービスの多様化、個別化が進み、変化のスピードと状況の複雑性が急激に増加していくことで、管理業務が爆発的に増え、近いうちに間違いなくその許容範囲を超えるであろう。
まずは、“ITツール”によって、マイスター的な担当者の業務負荷をできるだけ低減する必要がある。過去のさまざまな注文、さまざまな仕様、さまざまな不具合やクレーム、得意先や取引先情報、加工条件、加工方法、材料選定、品質検査結果など、必要なときに必要な形でとりだせるようにし、そのための業務手順を明らかにした上で、状況に応じて誰でも分担できるようにし、そして他の業務との連携をより効果的に作り変えていく。
さらに中小製造業は、こうした“ITツール”によって、企業の組織的な意思決定をより高度化し、情報連携をネットワーク化することで、企業の壁をこえた取引を拡大していくべきなのである。幸いなことに、インターネットという極めて強力で安価なネットワークがある。SNSなどのインフラを利用することで、地域や業種や時間を超えた中小企業間の取引を、これまでにないスピードで簡単に立ち上げることが可能となっている。
- その1:不要な情報を生成するムダ
- その2:必要な情報の到着を待つムダ
- その3:そもそも情報を伝達するムダ
- その4:不正確な情報を修正するムダ
- その5:そもそも情報を蓄積するムダ
- その6:必要な情報を探すムダ
- その7:情報の意味や精度を確認するムダ
図5 7つのムダ
このために必要なのは、ほんの少しの知識と、新しいものに挑戦する勇気と、ITカイゼンによる“つなぐ化”というコンセプトへの理解だけである。つなぐ化では、図5にあげたような情報に関する7つのムダを徹底的になくし、情報を受け取る側、利用する側が望む形式で、情報を加工し、蓄積し、提供する。情報の世界でも”後工程はお客様”という考え方が必要なのであり、最低限、連携相手の業務を知らなければ情報は作れない。生きた情報のネットワークは、相互の業務をお互いに理解することから始まるのだ。